楽しい記憶

天体写真や花鳥風月の写真など

天体導入法_ポタ赤の場合

日々試行錯誤の天体撮影なんですが、この没頭できる時間が私にとって貴重な楽しい時間です。今回は、試行錯誤の末たどり着いた、ポタ赤による天体導入方法の紹介です。

スカイメモのようなポータブル赤道儀には、赤経赤緯の目盛り環がありません。また、赤経軸の1軸モーターなので、天体の自動導入もできません。望遠鏡で見えない天体でも、明るい星(馬頭星雲であればオリオン座アルニタク)と同じ写野に入るか、M42のように特徴的な星(三ツ星)のすぐ近くにある天体であれば、簡単に導入できるのですが、例えばバラ星雲や、多くの銀河の場合はそうはいきません。

今日は、まず一般的な赤道儀に付いている、「1.目盛り環を使ったやり方」を説明し、次に私がやっている「2.ステラリウムを使った方法」を紹介します。最後に、「3.ボツにしたやり方」を紹介します。なぜボツにした方法も紹介するかは後で述べます。

ここでは直焦点撮影を前提としますので、カメラを望遠鏡にセットすることが前提です。

1.目盛り環を使ったやり方

昔はビクセン赤道儀でこの方法により観測をやっていた記憶があります。もちろん紙面の星図を片手に。最近ではスマホで見れる無料の星図もありますので手軽です。

まず、極軸望遠鏡などで極軸を合わせてから、天体近くの明るい星をカメラ画面(一眼レフカメラであれば電子モニター画面、天体用CMOSカメラであればPC画面)の中心に導入します。カメラ画面は正立像なので結構簡単です。

次に、赤道儀赤経赤緯目盛り環を回して、星図上のその星の座標に正確に合わせます。これで望遠鏡の向きがその明るい星の方向であることを望遠鏡に設定したことになります。そして、目盛り環が示す値が星図上の目的の天体座標になるように、望遠鏡の赤経軸と赤緯軸を手動で動かして望遠鏡を天体に向けます。この作業は結構繊細ですので、赤道儀に微動ハンドルが付いていないときびしいでしょう。

上の導入操作は、最初に導入した恒星と目的の天体との座標差分をあらかじめ星図上で算出しておいて、その差分だけ望遠鏡を動かすことでも可能です。

2.ステラリウムを使ったやり方

これが私がいつも使っている方法です。ステラリウムというOSS系のプラネタリウムソフトを使います。オートガイディングと撮影ソフトウェアを動作させるノートPCにインストールして使用しています。このソフトは日本語対応しているプラネタリウムソフトです。あらゆる天体(人工天体も)をリアルタイムで表示します。天体はその広がりや名称、写真まで表示する事ができ、もちろん画面は経度線・緯度線も表示される正確な星図です。

さらに素晴らしい点は、自分の撮影機材設定を入力しておけば、常に画面の中心に、赤い長方形でその写野を表示してくれるところです。撮影機材以外にも、望遠鏡による眼視や双眼鏡による円形の視界も表示することができます。

現在これ無しには私の天体写真・観望は成り立ちません。下図は、私のベランダから見た、2023/6/5 22:30の南南東の方角です。実際の空は薄雲により星は見えず、月齢16.5のほぼ満月は朧月です。

ステラリウムの画面

地平線の上の天体が色々表示されているのがわかると思います。赤経線と赤緯線、恒星・星雲・星団などの名称や広がりが図示されています。ほぼ満月の明るい月がいるので、あまりわかりませんが、天の川も表示されています。

2番目の図は、天体のマーカーと名称表示設定をやめてアンタレス付近を拡大した画面です。アンタレスとアルニヤトの他に、アンタレス周辺の反射星雲の写真が表示されています。この図を見れば正確に構図を決めることができるのがわかると思います。

ステラリウム上のアンタレス周辺

3番目の図は、上図の赤い写野を表示するために選択されている登録済み諸元です。この諸元は最初の図の右上に表示されていたものです。

写野を表示する諸元

登録済み諸元の組み合わせとして、センサーがASI294MCPro、望遠鏡がBLANCA70-EDT、補正レンズがKASAI 0.8x による写野が表示されているという意味です。登録自体は、一番右のスパナマークをクリックすると行うことができます。

このように撮影諸元を登録しておけば、常に画面の中央にその写野を示す赤い長方形が表示されるのです。表示モードには、地面をPC画面の水平とする経緯台モードと、赤経方向をPC画面の水平として上を必ず天の北とする赤道儀モードの2種類があります。1,2枚目の図はともに経緯台モード画面です。

実際の天体導入は下記のようにしています。下記「上下左右」は、ステラリウムの赤道儀モード画面での「上下左右」です。

  1. カメラの画面上辺が天の北に向くように配置する
    スカイメモの場合は、カメラ上辺がバランスウェイト軸に平行になるようにカメラを回転させる。
  2. 望遠鏡を赤緯方向のみ上または下に動かせば導入できる場合
    付近の明るい恒星を写野の下辺または上辺に導入。左右位置は、赤緯ノブのみを動かして目標天体が中心に来る位置とする。この状態からステラリウム上で、①赤緯方向に写野をずらす→②ステラリウムの写野になるまで望遠鏡の赤緯ノブを回す→①と②を繰り返して導入
  3. 望遠鏡を赤経方向のみ左または右に動かせば導入できる場合
    付近の明るい恒星を写野の右辺または左辺に導入。上下位置は、赤経ノブのみを動かして目標天体が中心に来る位置とする。この状態からステラリウム上で、①赤経方向に写野をずらす→②ステラリウムの写野になるまで望遠鏡の赤経ノブを回す→①と②を繰り返して導入
  4. 望遠鏡を赤緯方向に動かした後赤経方向に動かして導入できる場合
    2により赤緯ノブを動かしてから3により赤経ノブを動かして導入する。またはその逆。赤緯ノブと赤経ノブの変更地点に比較的明るい恒星か、複数の恒星による特徴的なパターン(三角形やL字型配置など)が見つかる事が条件。
  5. 望遠鏡を赤緯方向と赤経方向を繰り返し動かして導入する場合
    基本は4の繰り返し。目標天体の近くに明るい恒星が無い場合この方法となる。回すノブの変更地点をあらかじめステラリウムで事前検討する。

時間さえかければこの方法で導入できない天体は今のところ有りません。シーイングが悪いとEOS RPの電子モニター画面に写る恒星の数が少ないので、結構苦労しますが、冷却COMSカメラではかなり楽になりました。付近に明るい星が無い南天低いM83の導入でも30分程度で導入できました。

ちなみにEOS RPの時はカメラ本体の電子モニターを使ってピント合わせと導入を行い、撮影自体はBackyard EOSという有料ソフトを使用します。冷却COMSカメラでは、Sharp Capというフリーソフトを使用してピント合わせと導入、および撮影を行っています。

3.ボツにしたやり方

最初は、今流行りのPlate Solving機能を持ったソフトウェアを使えないか検討しました。Plate Solvingとは、撮影した画像データを星図データベースと照合し、望遠鏡の位置を正確に割り出してから、目的の天体との差分を計算して自動導入してくれる機能のことです。これら動作の、インプット画像を手動で与えられ、照合結果を星図上で示してくれるソフトウェアが有れば、Plate Solving 機能を持ったマウントが無くても、試し撮りした画像をインプットすることを繰り返せば、目的の天体を正確に導入できると考えたわけです。

そして調べてみるとそういうソフトウェアが有りました。それは、SkyChart / Cartes du Ciel(CDC)Astro Photography Tool(APT)です。ざっくり言うと、APTが写真を解析してその諸元をCDCに送信し、CDCは星図上に解析範囲を描画します。APTは撮影ソフトなのでカメラと連携します。CDCはAPTから受信した写野を描画するだけでなく、マウント(2軸赤道儀)を動かすと、CDC上の写野が動くそうです。

下の2つの画像は、APTのImgタブで前回紹介したM81の取って出し画像ファイルを指定した後、APTのPointCraft画面でSolvボタンを押したところと、APTのPointCraft画面でShowボタンを押してCDC上に写野が表示されたところです。

APT

CDC

CDCの星図画面の中心に、前回紹介したM81,82写真のトリミング前の写野が、赤い長方形で表示されています。ここで使ったAPTのPoint Craftという画像照合機能を使うには、Plate Solve2というソフトウェアが別に必要です。

一連の操作はこの記事を参考にしました。

以上の様にAPTでは、撮影した画像だけでなく、画像ファイルを指定できるので、別のソフトで撮影した試し撮り写真を与えればCDCの星図上で確認できます。しかもCDCではステラリウム同様に、星図上の中心に自分の写野を長方形で常に表示しておくことが出来るので、実際にはAPTを使用しなくても2に紹介したやり方で導入を行うことができます。でも下記の点によりCDCを使うのはやめました。

  1. CDC上の天体表示は簡易的なもので、ある程度の範囲はわかるが正しい形状などがわからない
  2. CDCでは観測地の現在時刻を指定した星配置がわからない
  3. CDCでは経緯台モードしかない

総じて天体描画機能はステラリウムの方がかなり優っているわけです。その代わりカメラや赤道儀との連携機能がステラリウムには有りません。

→訂正 : 望遠鏡ガイドというプラグインが有りました。これを使うと赤道儀と連携してステラリウム上で指定した天体の自動導入が可能です。

そして、おそらくCDCの方がソフト動作としては軽いと思います。ステラリウムは特にリアルタイムのプラネタリウム動作中はかなり重いです。

CDCとAPTについては、フリーソフトで本格的なPlate Solving 機能が使える点で大変価値あるソフトウェアです。私も将来使う可能性があるので備忘録としてここに記載しました。