楽しい記憶

天体写真や花鳥風月の写真など

QBPによる冬の赤い散光星雲

雨。。午後は上がる予報ですが、今日も明日も星は出そうにありません。鳥探散歩に出かける気にもなれません。こんな時は過去の記憶が残っているうちに天体写真記事を書きます。

今回は、ポタ赤「スカイメモSW」を使った、7cm F6 屈折とEOS RPによる直焦点撮影にQuad Band Pass Filter(QBP)を初めて導入して、冬の赤い散光星雲を撮影した記憶をログにします。

前回は、ベランダから撮影したオリオン大星雲馬頭星雲の写真を紹介しましたが、全く同じ機器構成で、フラットナーレンズ先端に48mmのQuad Band Pass Filter(QBP)を取り付けて撮影した写真です。前回と同じ対象も有りますのでぜひ比較してみてください。撮影条件が異なるので単純な比較はできませんが、ナローバンドフィルターであるQBPの性能を十分に発揮できたのではないかと思います。私の様に公害地での撮影を余儀なくされる人にとっては大変ありがたいフィルターです。

前回の写真

webkoza.hatenablog.com

もそうですが、今回紹介する散光星雲や暗黒星雲の写真は、我々の天の川銀河内に存在する天体で、主に電離した水素原子から放出される光子が観測される天体で、hII領域と呼ばれています。散光星雲は主にバルマー系列*1のうちhα線(光の波長656.28nm)と呼ばれる赤い色で観測されます。これとは対照的に、反射星雲は、電離していないガスが周りの星に照らされてその反射光が観測される天体です。この天体も大きいものは主に天の川銀河内に存在し、当然ながら照らす恒星が放つ光を反映した色で観測されますのでそのスペクトル(波長)は様々です。

QBPフィルターは、バルマー系列(水素原子の線スペクトルのうち可視光から近紫外の領域にあるもの)のうちhαとhβ線、およびSII、OIII線にターゲティングした光学バンドパスフィルターです。

QBPを使うと一眼レフカメラで撮影した写真全体が白飛びしずらくなるため、ISO感度を上げることが出来ます。hkir改造をお願いした早田カメララボでは、一般風景写真が赤くならないように、改造後にオリジナルのWB設定を仕込んでくれます。このWB設定は優秀で、一般風景や人物写真でもhkir改造の影響がほとんどわかりません。これは青を強調したWB設定ですのでそのまま天体写真に使うと撮影後のBのヒストグラムの頂点が最も右に来ます。WB設定を変更して撮影しても良いのですが面倒なので私はこのまま使っています。この状態だと撮影後のヒストグラムは、Bの頂点が左から3/4か少しそれより右ぐらい、R,Gが1/2の少し右~ちょうど1/2ぐらいになるように1コマあたりの露出時間とISO感度を設定しています。これだと、取って出し1コマの見た目はかなり全体が青く明るく、星が見ずらい写真になりますが、PCでRAW現像するので問題ありません。

下記にQBPを使った4枚の写真をアップします。

まずはオリオン大星雲

QBPによるオリオン大星雲

<1枚目諸元>

機材:
EOS RP hkir , BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用フィールドフラットナーII ,
QBPフィルター , スカイメモSW , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
ソフトウェア:
PHD2による1軸オードガイド , BackYardEOSによる撮影
撮影地:神奈川県茅ヶ崎市自宅ベランダ
撮影日:2023/2/5
撮影条件:ISO500 , 90sec X 11コマ(総露光時間16分30秒), ディザリング
編集:
sequqtorによる明るさ調整・加算平均合成   ,
PaintShopPro7.04によるトリミング等

QBPによってカラーコントラストが向上し、内部構造がより立体的になりました。ランニングマン星雲は、暗黒部の前面に存在する淡いhα線を映してしまい人の形がなんとなくわかる程度になってしまいました。

2枚目は木星から馬頭星雲

QBPによる燃木星雲から馬頭星雲

<2枚目諸元>

機材:
EOS RP hkir , BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用フィールドフラットナーII ,
QBPフィルター , スカイメモSW , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
ソフトウェア:
PHD2による1軸オードガイド , BackYardEOSによる撮影
撮影地:神奈川県茅ヶ崎市自宅ベランダ
撮影日:2023/2/8
撮影条件:ISO800 , 180sec X 20コマ(総露光時間60分), ディザリング
編集:
sequqtorによる明るさ調整・加算平均合成   ,
PaintShopPro7.04によるトリミング等

馬頭背景であるIC434が少し立体的になりました。燃木星雲の色がちょっと実際より赤すぎる気がします。

3枚目はバラ星雲。この星雲は昔サクラカラー400で苦労して撮影した記憶が有るので一番撮りたかった星雲です。

QBPによるバラ星雲

<3枚目諸元>

機材:
EOS RP hkir , BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用フィールドフラットナーII,
QBPフィルター , 
スカイメモSW , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
ソフトウェア:
PHD2による1軸オードガイド , BackYardEOSによる撮影
撮影地:神奈川県茅ヶ崎市自宅ベランダ
撮影日:2023/2/9
撮影条件:ISO800 , 180sec X 30コマ(総露光時間90分), ディザリング
編集:
sequqtorによる明るさ調整・加算平均合成   ,
PaintShopPro7.04によるトリミング等

ちょっと全体的に暗いイメージかもしれませんが、内部のグロビュールも良く映っており、満足の一枚です。輝度を上げてさらに中心部の青を強調した画像も作ったのですが、PC上では青がきつ過ぎるので採用しませんでした。印刷すると大変良いのですがね。。

最後の写真はカモメ星雲

QBPによるカモメ星雲

<4枚目諸元>

機材:
EOS RP hkir , BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用フィールドフラットナーII,
QBPフィルター , 
スカイメモSW , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
ソフトウェア:
PHD2による1軸オードガイド , BackYardEOSによる撮影
撮影地:神奈川県茅ヶ崎市自宅ベランダ
撮影日:2023/2/17
撮影条件:ISO1000 , 180sec X 28コマ(総露光時間84分), ディザリング
編集:
sequqtorによる明るさ調整・加算平均合成   ,
PaintShopPro7.04によるトリミング等
Pix Insightによる小さい星の減光処理

4枚の中では最も淡い星雲なので苦労しましたが、カモメが羽を広げた全体の広がりと頭の構造もそれなりに表現できました。しかし星雲の淡い部分が荒く、まだまだ露光不足によるS/N不足だと思います。他にS/N不足の原因はISO1000でのカメラ自体のノイズレベル問題もあるかもしれません。また、はじめ写真画像をブログに貼り付けてみると細かい星がうるさくて星雲が今一だったので、PIX Insight の星消しツール(StarNet2)を使って小さい星を少なくして星雲を引き立つようにしました。

*1:バルマー系列
原子を含む量子は量子力学によりそのエネルギーレベルがとびとびの値になる事が解明されました。そのレベルをエネルギー準位といい、水素原子の電子軌道のうち10.2eVにある電子軌道 (量子数n=2) にそれよりもエネルギー準位が高い軌道から電子が遷移(n:3->2,4->2,5->2,6->2)したことにより放出された光子による4種のスペクトルのことを発見者にちなんでバルマー系列と呼ぶ