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トールの兜星雲(NGC2359)をデュアルナローバンドフィルターで撮影

予告通りトールの兜星雲(NGC2359)を、3連休の2024/02/10,12の2夜にわたって撮影しました。淡い星雲なので4分/コマで2時間/日以上露光する計画を立てました。庭先からの撮影なので、電線カブリ前の23:30頃までの勝負となります。

この星雲は[OIII]線が比較的強く、hα線も放射している輝線星雲ですので、デュアルナローバンドフィルターで良く写ってくれるはずです。

初日は通して快晴でしかも新月。2時間順調に撮影完了。2日目は月齢2.2の細い月が20:20頃没する感じなので月光の影響はあまり無いはず。ところが途中雲が出現して短時間ですが雲通過待ちが有りました。また、久しぶりのリビングでくつろぎながらの撮影のせいか気が緩んでしまい、子午線反転後の1時間ぐらいの間、間違えて2分/コマで撮影してしまいました。つまり4分/コマと2分/コマが混在する事態です。

しょうがないので、いつものようにPixInsightでデフォルト設定のままWBPPを行って、できた2つのLight画像をHDRCompositionで合成しました。4分露光は初めてなのでダークフレームを21枚撮影しました。2分露光のマスターダークは使いまわしです。マスターフラットも使いまわしで、以前に同じ光学系(L-eXtremeフィルター+Drawer 付)で撮影した画像で生成されたものです。

下記が仕上げた写真です。

2024/02/10,12撮影 トールの兜星雲(NGC2359)

<諸元>

  • 機材:
    ASI294MCPro , BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用フィールドフラットナーII ,
    IRCutフィルター,L-eXtremeフィルター , AM5赤道儀  ,
    QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
  • 支援ソフトウェア:
    ステラリウムによる自動導入 ,
    SharpCapによる撮影とプレートソルビング ,PHD2による2軸オードガイド 
     , ASI Mount Serverによる赤道儀連携
  • 撮影地:
    神奈川県茅ヶ崎市自宅庭先
  • 撮影日時:
    (1)2024/02/10(土)20:58 ~ 23:38
    (2)2024/02/12(月)20:07 ~ 23:23
  • 撮影条件:
    Gain200 , センサー温度 -20℃ 
    (1)240sec x 34コマ(露光時間136分)
    (2)240sec x 21コマ(露光時間84分)
       120sec x 38コマ(露光時間76分)
    総露光時間:296分
  • 編集:
    PixInsightで加算平均合成後240sec,120sec 2つの画像をHDRCompositionで合成。ABEでムラ補正し、疑似AOO合成で色合わせした画像から星雲画像、SPCCで色合わせした画像から星画像を取り出し、各々BXTや彩度増加などの編集をしてから合成。トリミング(フルサイズ換算焦点距離1640mm相当)

西を上にした写真が、北欧神話のトール神がかぶっている角の生えている兜のように見えるのだそうです。この写真は上が北なので角は右方向です。中心の星は超高温且つ巨星のWR(ウォルフライエ)星で、超新星爆発一歩手前の星だそうです。この星との相互作用により電離された原子から様々な輝線スペクトルが届きます。OIIIとhα線のみを通すデュアルナローバンドフィルターと冷却カラーCMOSカメラで良く写ってくれました。兜の周りの淡い部分も意外と表現できました。

BXTによる高解像化のおかげで兜の構造が尖鋭化しました。下記は、240secのIntegration後の画像と最終画像の拡大です。兜の右側境界の幅を大まかに測定した結果を書き込んであります。左が10pxぐらいに対し最終画像では6pxとなっています。

左:Integration直後 右:最終画像(BXTによる効果)

思い切って仮に右の画像が兜境界の正しい幅と仮定すると、撮影により±2px程度のブレが生じたことになります。今回の光学系による視野角に換算すると、±4.52"(=2.26"/px × 2)程度となります。このブレの原因は何でしょうか。

ガイド精度は初日の方が悪く、±3~4"程度、2日目は±2"程度でしたので、ガイド精度の影響も当然あると思いますが、それだけでは説明がつきません。7cmという小口径望遠鏡では大気揺らぎによる影響はあまり無く*1、回折現象による光学系限界による影響が大きいと考えられます。7cm口径でレイリー限界値を算出してみると、OIIIで1.8"、hα・SIIで2.3-2.5"です。ゆえに私の光学系では、ガイド精度とレイリー限界値の両方による影響に支配されると言えると思います。このうち口径を上げずに撮影技術で低減できるのはガイド精度の方だけです。

でもAIを使った画像処理でかなりの改善が見込めるのが、嬉しい最近の最先端技術というところでしょうか。この画像処理により完全に正しい姿に戻っていると決めつけるのは難有りだと思いますが。というか、「趣味の写真」という観点ではそこまで考えなくても良いかって感じではあります。

それとこの画像、星の色が正しく無い気がしています。青色巨星である中心のWR星(HD 56925)が、赤に寄ってしまっています。いつものように星画像はSPCCで色合わせした画像から取り出しているのに。デュアルナローの影響でしょうか。フィルターに合わせてパラメータを変更できるようになっているのが気になっています。いつもデフォルト設定のままなので。今度きちんと調べてみようと思います。本当は星画像用のブロードバンド画像を撮影すべきなのですが、時間が。。

また、前述の通り今回は間違えて4分露光と2分露光のコマが混在してしまい、HDRCompositionで合成しました。対象が淡い星雲なので、Binarizing threshold値をS/N再優先で決めました。

下記はSubFrameSelectorのMesurements画面です。表中filename列の一番上のフレームが240s露光、2番目は120s露光のIntegration直後画像で、HDR_**というフレームは、これら2つの露光フレームをHDRCompositionで合成したフレームで、上から下にいくほど合成時のBinarizing threshold値を小さくしたものです。一番下のIndex9のフレームを採用しました。このフレームのBinarizing threshold値は0.05です(こんなに小さくして本当に良いのか不明。。)。

このフレームは他の合成したフレームよりFWHMとEccentricityが若干大きいものの、SNRが結構改善できています。Index9のSNRが優っているのはグラフを見ると一目瞭然です。

そもそも、WBPPのパラメータ設定で、最初から2種の露光時間によるLight画像を1つの画像に合成できるようなのですが、やり方がわかっていません。

下記は、アノテーションを入れた画像です。

ステラリウムによると見かけの大きさは10'×5'となっていましたが、周りの淡い部分も含めると20'×20'ぐらいの大きさがあることがわかります。

下記は位置を示す星座絵です。

ステラリウムより:NGC2359の位置と星座絵

 

*1:大気揺らぎの考察は、京都大学の補償光学に関する記事「http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/LECTURE/OBS/ao.html」を参考にしています