楽しい記憶

天体写真や花鳥風月の写真など

平安時代の記憶_かに星雲(M1)の撮影

今回は、あこがれの「かに星雲(M1)」です。メシエカタログ1番なのに、この天体結構小さいんです。実は小口径望遠鏡で狙う天体では無いと思っていたのですが、亜鈴状星雲M27が思ったより良い写真になったので、同等の大きさであるこの天体も撮影してみることにしました。

天候のタイミングを見計らっているうちに月の勢力が増してしまい、月齢8.1の月が輝いている12/21(木)の撮影になりました。月はこの日まだうお座にいて、木星を追いかけている状態なので、少し遠い感じです。次の日(昨日)には木星に最接近してます。そして、当然デュアルナローバンドフィルターを使用するので多少の月明かりは大丈夫のはず。

ということで仕上げた写真が下記です。

2023/12/21撮影 疑似AOO合成したかに星雲(M1)

<諸元>

  • 機材:
    ASI294MCPro, BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用FLLII ,
    IRCutフィルター,L-eXtremeフィルター,
    AM5赤道儀  , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡,
    極軸カメラ Pole Master
  • 支援ソフトウェア:
    ステラリウムによる自動導入  ,SharpCapによる撮影とPlateSolving
     ,PHD2による2軸オートガイド 
    , ASI Mount Serverによる赤道儀連携
  • 撮影地:
    神奈川県茅ヶ崎市自宅近く農道
  • 撮影日時:
    2023/12/21(木)19:43 ~ 23:26
  • 撮影条件:
    Gain200 , センサー温度 -20℃ 
    120sec x 82コマ(総露光時間164分)
  • 編集:
    PixInsightで加算平均合成後トリミング(フルサイズ換算焦点距離4000mm相当)してから、星雲画像と星画像を取り出しそれぞれBXTや彩度増加などの編集をしてから合成。星雲画像は疑似AOO合成で色合わせ。

なんかいかにもAOOって感じの色です。3時間半露光するつもりでしたが、断続的に強くなる風の影響で歩留まりが悪く、75.2%(82コマ/109)でした。途中で気づいたのは、AM5赤道儀用ハンドコントローラーのカールケーブルが風で振動し、ガイドに結構大きな影響が出ること。撮影中に1コマ犠牲にしてコネクタを抜いて除去してからはこのカールケーブル振動による影響は無くなりました。もっと早く気づけばもう少し歩留まりは上がっていたかもしれません。それと、バランスウェイト無しだと風に弱くなる可能性は有るのかなあ。

それでも、これほどフィラメント構造が浮かび上がるとは思っていませんでした。BXTの効果も有りますが、さすが冷却CMOSカメラ。わりと感動しています。

月明かりによる光害カブリは有りましたが、楽に除去できるレベルでした。下記は2分撮って出し画像です。fits viewerで表示したものです。

2分1コマ撮って出し画像

82コマ分スタック直後の画像が下記です。STFでストレッチ表示し最終画像と同じ率で拡大してあります。フィラメント構造をしっかり捉えています。

82コマ分をIntegration(スタック)直後

かに星雲と言えば、超新星爆発で出来た星雲で、日本で言えば平安時代1054年7月4日に現れ1056年4月5日に見えなくなったと、中国北宋の第4代皇帝の仁宗時代の記録に残っているそうです。最初の23日間にわたり昼間でも肉眼で見え、夜間は後2年間も見えていたというのだから、すごい天文現象だったはずです。今このクラスの超新星爆発が観測されたら大変な話題になるでしょうね。この天体の中心には、直径約20kmの高密度天体である光度16.5等級の中性子星かにパルサー)が残りました。この星は1秒間に30回の高速回転をしていて33msの周期で電波やX線を出し、また可視光線で星雲全体を照らしています。このおかげでこの星雲からは様々な波長の電磁波(可視光も含めて)が観測されます。感度域の異なる系によって色々な写真が作られています。下記は大阪大学の研究チームによるサイトです。

かに星雲 - 大阪大学X線天文グループ

X線で撮影した画像が大変面白いです。天然のシンクロトロン放射が起きているとは。そして、かに星雲から発せられるX線は、土星の衛星タイタンの大気厚みを見積もるために利用できるという記事が大変興味深いです。

今回のかに星雲写真は、狭帯域のHα線とOIII線のみを通す系(デュアルナローバンドフィルターと冷却CMOSセンサー)で得たデータを、PC上の画像処理により、センサーの特質を考慮して疑似的に変換生成したHα線画像とOIII線画像を用いてR(Hα)G(OIII)B(OIII)成分に割り振る、いわゆる疑似AOO合成を行って可視化したものという事になります。但し例によって星の画像は、蓄積されたDBデータに基づいたSPCCという処理によって色合わせしています。

ちなみに、16.5等級の「かにパルサー」ですが、JAXAのサイトにある画像と比較すると、写っていると思われるのですが残念ながらすぐ南の小さい星と分離できていません。マイクロフォーサーズの画素分解能の限界に近いのですが、デュアルナローでももっと露光すれば分離する可能性は有ると思っています。下記は最終画像のL画像に、レイヤー数4とメディアン変換を指定したHDRMTをかけて中心部を見やすくした画像です。

カニパルサーの位置

カニパルサーについては、モノクロ冷却CMOSカメラで撮影してSAO合成した、こちらの方の画像が大変良く写っていると思います。

そして恒例のアノテーションを付けてみました。

アノテーション画像

大きさとしては長手方向で6-7'、短手方向で5'ぐらいです。やはりM27と同じぐらいですね。地球からの距離は6500光年。平安時代の人が見た超新星爆発は、実はその日から6500年前に発生した事象だったわけですね。M27の距離は1360光年なので5倍近く遠いことになりますから実際にはM27にくらべて星雲の広がりはかなり大きいわけです。

LBN833とsh2-244という番号も定義されていますが、M1と同じ天体を示しているそうです。PixInsightのAnnotateImage Scriptでは、ずれて表示されてますが、理由は不明。。

最後にこの天体の位置です。おうし座の角の先端です。

かに星雲(M1)の位置:ステラリウムより