楽しい記憶

天体写真や花鳥風月の写真など

オリオン座のモンキーヘッド星雲と処理内容

去年の12月から始めた天体写真。そろそろ1年が経ちます。少し経過を振り返っておきます。

この1年の経過概要

最初はポータブル赤道儀とフルサイズの一眼レフカメラ(EOS RP)+カメラレンズによる星野写真撮影でした。そして赤い星雲が写らないことに気づき、カメラを天体改造(フィルター換装:hkir改造)し、それに合わせて小口径望遠鏡とオートガイダーを購入して直焦点撮影を開始したのが今年の1月。

webkoza.hatenablog.com

さらにDSO(DeepSkyObject)の撮影のため拡大率を上げることとノイズ低減を目的に、マイクロフォーサーズの冷却カラーCMOSカメラASI294MCProを購入。さらにさらにオートガイドの精度向上を目的に7月にはAM5赤道儀を調達しました。

webkoza.hatenablog.com

どの段階でも目的は達成され大変充実していました。

ソフトウェアとしては冷却カラーCMOSカメラ購入直前に、スタック時の星のアライメント精度を向上させることと、DSOの画像編集のためにPixInsightを購入。これまでは、スタックにはSequator、画像編集にはPaintShopProを使用していました。慣れたPaintShopProは今でもたまに使用しています。

私もようやくモダンな天体写真の世界に浸り始めている気がしています。最近では、PixInsightの有料プラグイン「BlurXTerminator」も導入し、天体撮影が趣味なのか、天体画像編集が趣味なのかわからなくなりかけています。。

モンキーヘッドの撮影

そして今回は、hα線とOIII線を出す輝線星雲を高コントラストで撮影するために調達した、デュアルナローバンドパスフィルターを使用した最初の写真です。購入したのは、 L-eXtremeフィルター。OPTLONGの製品で、hα線とOIII線の2波長のみ通すバンドバスフィルターで、半値幅は7nm。hβ線SII線も含めた4波長を網羅しているQBPIIIフィルターもデュアルバンドパスフィルターですが、その半値幅は45-50nmぐらいあり、その差は大きいです。OPTLONGには上位製品として半値幅3nmのデュアルナローバンドパスフィルターL-Ultimateという製品がありますが、扱いが難しそうなのでこちらはやめました。

最初の撮影に選んだのは、昨シーズン一眼レフカメラ時代に撮影時期が間に合わなかったモンキーヘッド星雲(NGC2174)。明るい星雲なのでQBPIIIでも十分写ってくれるはずですが、練習も兼ねてあえてこの天体にしました。もちろん初めての撮影天体です。この星雲は、オリオンが振り上げた右手に持つこん棒の左近くにある大きなHII領域です。ふたご座の兄カストルの左足元近くでもあります。

下記が仕上げた写真です。

モンキーヘッド星雲(NGC2174):上が北

<諸元>

  • 機材:
    ASI294MCPro, BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用FLLII ,
    IRCutフィルター(共通),
    L-eXtremeフィルター(ナローバンド撮影用),
    CBPフィルター(ブロードバンド撮影用),
    AM5赤道儀  , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
  • 支援ソフトウェア:
    ステラリウムによる自動導入  ,SharpCapによる撮影とPlateSolving
     ,PHD2による2軸オードガイド 
    , ASI Mount Serverによる赤道儀連携
  • 撮影地:
    神奈川県茅ヶ崎市自宅近く農道
  • 撮影日時:
    2023/12/03(日)20:24 ~ 2023/12/04(月)00:22
  • 撮影条件:
    Gain200 , センサー温度 -5℃ 
    ナローバンド撮影  120sec x 68コマ(総露光時間136分)
    ブロードバンド撮影  120sec x 31コマ(総露光時間62分)
  • 編集:
     ナローバンド画像とブロードバンド画像を各々PixInsightで加算平均合成後、前者から星雲画像、後者から星画像を取り出しそれぞれ編集してから合成後トリミング(フルサイズ換算焦点距離1490mm相当)

いつものように上が北です。この向きだと、頭に緊箍児(きんこじ)を付けた孫悟空が右を向いている様子に見えます。でも逆さ(南が上)に見ると、もっとリアルな左向きの猿の顔に見えるんです。(下図)

モンキーヘッド星雲(NGC2174):上が南

猿というよりは、猿の惑星って感じかも。下記はアノテーション画像です。

中心部のNGC2175という散開星団は6.8等級、周りの星雲自体も大変明るいことで知られていますが、ナローバンド撮影なので長めに2時間以上露光しました。それと、綺麗な星画像を得るためにCBPフィルターによるブロードバンド撮影も行いました。

下記は天体の場所を示す星座絵です。

星座絵:ステラリウムより

編集概要

ナローバンド撮影の開始は20:24でまだ東の低い位置なので、普通だと光害の影響が大変大きくなりますが、さすがナローバンド。光害は0では有りませんが、WBPPによるIntegration(PixInsightのスタック)完了後、ABE(PixInsightの自動ムラ補正処理)で楽に除去できるレベルでした。

このナローバンド画像にはモンキーヘッドの周りに複雑な形状のかなり淡いHII領域も薄く捉えていましたが、今回はABEのfunction degreeの値を20次以上に上げて、これらもムラとして取り除いてしまいました。うまく使えばこんなこともできるという発見でした。

ナローバンド画像はABE処理後疑似AOO処理で色合わせを行って、starnet2で星雲だけを分離してBlurXTerminator(BXT:PixInsightの天体尖鋭化処理)を実施。その後CS,マスクによるトーンカーブ補正、デノイズ処理などいつものノンリニア段階の処理を行いました。写りがいい明るい天体とは言え、仕上がった星雲細部や背景とのコントラストの高さは驚きです。

ブロードバンド画像は、WBPPによるIntegration完了後、同じくIntegration完了したナローバンド画像に星の位置を合わせるStarAlignment(PixInsightの星位置アライメント処理)を実施して、ナローバンド画像に星位置を合わせておきました。

ブロードバンド撮影開始した23:15には、既に月が上がってきており月による光害の影響がありましたが、CBPフィルターでも結構な光害カット性能があるため、ABEでムラ補正は問題無く完了しました。その後starnet2で分離した星画像をストレッチして、ColorSaturation(PixInsightの彩度アップ処理)で彩度を上げた後、星を小さくする処理を行って星画像を仕上げました。

次に、ナローバンド画像から得た星雲画像とブロードバンド画像から得た星画像をScreenStarsスクリプト(PixInsightの画像合成ツール)で合成してからクロップを行い、最後に輝度画像をマスクとして使って星雲部分をトーンカーブ補正で調子を整えて完了です。

初めての処理:その1

初めての処理その1は、異なる撮影画像からそれぞれ分離した星雲画像と星画像を最終的に合成したこと。今まではQBPIIIフィルターで撮影してスタックした1枚の画像から分離した星雲画像と星画像をそれぞれ編集してから最後に合成して基に戻すことを行っていましたが、ナローバンド画像からこの方法で得た星画像はおかしくなると、どこかの記事でHIROPONさんが言っていたような。。なので今回の星画像はCBPによるブロードバンド画像を使うことにしました。

下記は、今回のナローバンド画像とブロードバンド画像の星画像を比較したものです。左がナローバンド、右がブロードバンドです。

ナローバンド撮影(左)とブロードバンド撮影(右)の星画像比較

いずれもスタック後ABEとSPCCを完了し、starnet2で星を分離した後の画像です。思ったより違いは有りません。でも総露光時間が異なるものの、色が2色になっている星があるのが分かります。これは周辺収差により伸びている星で顕著で、中心部では発生してません。なのでクロップしてしまえば現実的には問題ないかもしれません。今後の撮影での判断が難しい所です。そもそも周辺コマ収差が最小になる条件が出せれば全く問題無くなる可能性があります。その条件が決まるまで(最近購入したフィルタードロワー込みで撮影のたびに光路長を変えて実験中)はこの撮影方法を継続かなあ。。

初めての処理:その2

そして、もう一つは星画像において星を小さくする処理についてです。今までBXTとMorphologicalTransformationにより生成した「小さな星のマスク」をかけた状態での減光処理に頼っていましたが、今回はうまくいきませんでした。まずBXTをかけると、大きな星の形状がおかしくなる。具体的にはスパイク上の突起が出現していまいました。なるべくBXTは弱くかけておいてこのスパイクを軽減して上記マスクによる星を小さくする処理をかけると、今度は星の周囲にリンギングが出現しました。これは例によって周辺の間延びした星で顕著なのですが、使い物にならないので、ボツ。

代わりになるPixInsightでのうまい処理は無いか探したところ、有るわけです。下記がその情報。さっそくここで紹介されているPixMathインスタンスをダウンロードして使わせていただきました。ほんといつも有用な情報助かります。

snct-astro.hatenadiary.jp

BXTによる星の尖鋭化を行っていないので、いつもよりちょっとポテっとした星画像になっている気もしますが、ま、いいか。