楽しい記憶

天体写真や花鳥風月の写真など

北アメリカ大陸とペリカン

夏休み中父親の3回忌のため埼玉県に帰省しました。命日の8/19が法要日だったのですが、その日の朝母親がリビングで転んでしまい、お寺に向かうも歩けそうになかったので妹が病院に連れて行き、私は寺に残り御住職にそのまま法要をやっていただきました。母親は結局即入院となりました。足の付け根の軽い骨折だそうです。リハビリをやりながら9/1に退院見込みとはなりましたが、高齢で、しかも両ひざ人工関節で杖歩行だったため大変心配です。私も最近腰と右足の付け根の痛みがひどく痛み止めを飲みながら理学療法を受けることになり、久しぶりの船外機ボートによる釣りもキャンセル。。暑さも相まってなんか心が塞ぎがちです。

しかし星が見えている夜は庭先に機材をセットし、楽しい時間を過ごす事ができます。今回のブログは前回の北アメリカ星雲写真がどうしようもないレベルだったので、

webkoza.hatenablog.com

撮り直しした記録です。手持ちのマイクロフォーサーズの冷却CMOSカメラでは写野を広くできないので、モザイク合成をすることになるのですが、なかなか私には難しいテクニックです。そこで久しぶりにフルサイズCMOSセンサーのEOS RPで直焦点撮影しました。冷却CMOSカメラに比べてノイズ覚悟の撮影になります(真夏ですし。。)。0.8xレデューサーを使ってとなりの白鳥座の1等星デネブも入れる広い写野で撮影しました。

1.仕上げた写真

下記がその写真です。

アメリカ星雲(NGC7000)とペリカン星雲(IC5070)

<1枚目諸元>

●機材:
EOS RP, BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用0.8xレデューサーII ,
QBPフィルター , AM5赤道儀  , QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
●支援ソフトウェア:
 ステラリウムによる自動導入後手動位置調整 ,
 BackYardEOSによるディザリング撮影 ,PHD2による2軸オードガイド 
 , ASI Mount Serverによる赤道儀連携
●撮影地:①神奈川県茅ヶ崎市自宅近く農道,②自宅庭先
●撮影日:①2023/8/17(木),②2023/8/24(木)
●撮影条件
  ①:ISO感度1000 ,120sec x 41コマ
  ②:ISO感度1000 ,120sec x 41コマ
 (総露光時間164分)
●編集:
 PixInsightで加算平均合成後トリミング(フルサイズ換算焦点距離480mm相当)等

お気づきだと思いますがデネブがいません。星像破壊ともいうべき激しい周辺収差によりフルサイズ換算焦点距離480mm相当にトリミングせざるを得ませんでした。これでも拡大すると周辺収差は目立ちます。収差については後程考察します。

2枚目の写真は1枚目の写真をさらにトリミングして、ユカタン半島フロリダ半島周辺とペリカンの顔を大写しにしたものです。さすがはフルサイズ。背景ノイズに打ち勝つS/N比を得るため2夜にわたる164分間の露光が功を奏して、結構迫力有る写真になった気になっています。

メキシコ湾周囲の北アメリカ大陸とそれを見つめるペリカン

<2枚目諸元>

●機材,支援ソフトウェア,撮影地,撮影日,撮影条件:
  全て1枚目と同じ
●編集:
 1枚目の写真をさらにトリミング(フルサイズ換算焦点距離877mm相当)

ペリカン星雲は初撮影なのでアノテーションも入れてみました。

アメリカ星雲とペリカン星雲のアノテーション入り写真

2.収差について

今回周辺収差の酷さに驚いてしまいました。最初8/17に41枚撮影した時の撮って出し画像を見て、EOS RPの光学レンズ関連の補正が全てONになっているのが原因かもしれないと思いました。「長秒時ノイズ補正」はOFFにしていましたが、canonレンズは使わないので「光学レンズ関連補正」はONでも無効になると思い込んでいたためONのままでした。どっちみち露光が足りないようなら再撮影すると決めていたので、2日目の8/24は「光学レンズ関連補正」を全てOFFにして撮影しました。

下図は8/17撮影(左:光学レンズ関連補正ON)と8/24撮影(右:光学レンズ関連補正OFF)の撮って出し画像をストレッチして左上の同じ場所の星像を比較したものです。この設定と撮影日・撮影場所以外の違いは有りません。

左:EOS RP光学レンズ関連補正ON,右:OFFの撮って出し画像

どちらも同様にひどい星像です。つまりEOS RPのこの設定が原因ではない事がはっきりしました。レデューサーの収差補正機能はフラットナーレンズより劣るとは思っていますが、冷却CMOSカメラでは線状に星像が伸びることは有ってもこのように三角状に歪むことは今まで有りませんでした。

下図は、同じ光学系(望遠鏡&レデューサー)を使用して、左は、ASI294MCProで7/17に撮影した写真の左上隅の位置の星像、右は、EOS RPで撮影した今回の写真中心位置からASI294MCProの上記星像位置と同じピクセル数分左上方向に移動した地点の星像です。どちらもスタック直後の写真です。

左:ASI294MCPro、右:EOS RP
同一光学系において中心から写野左上方向に同一ピクセル分移動した位置の星像

写野中心の天体位置が異なるので違う星が写っています。星が伸びている量は同じようなものですが、星像の歪み方ははっきり異なっています。思い付く原因は下記3つぐらいです。

  1. センサーのピクセルサイズと密度の違いによりEOS RPの方が光学系の周辺収差が大きく表れる。
    ピクセルサイズ:EOS RP 5.77um、ASI294MCPro 4.63um
    センサーサイズ:EOS RP 36mmx24mm、ASI294MCPro19.1mmx13mm
  2. 「光学レンズ関連補正」を全てOFFにしてもEOS RPのカメラ機能として何か人為的な変換をやっている。
  3. EOS RPのEFマウントとRFマウントの変換アダプター内部で回折が起きている。

どれもあり得るとは思いますが、良くわかりません。3については当然フルサイズセンサー対応のアダプターを使っていますがサードパーティ製だったので、次回は野鳥撮影用望遠レンズに装着しっぱなしのcanon純正アダプターを使用してみようと思います。

これ以外に、望遠鏡の歪みなどが有りますが、7/17の撮影後8/17の撮影までのあいだの1か月間に歪みが生じたとは考えにくいです。これは次にASI294MCPro+レデューサーで撮影した時に答えが出ます。他には、レデューサーやカメラの勘合不良も考えられますが、7/17の撮影は大丈夫だったのに8/17と8/24の撮影時はどちらも勘合不良が起きたというのは不自然です。

いずれにしても、結局フラットナーレンズ使用よりも狭い画角にトリミングする羽目になるので、EOS RPで微光星が多い対象を撮影する時はレデューサーでは無くてフラットナーレンズを使用することにします。

3.Blur X Terminator

BXTの使用期限5日前の本日、永久版を購入しました。PixInsightのプラグインのインストールはちょっと独特で、ライセンスキーの入力方法を忘れていました。RC Astro 社の「Installing RC Astro tools in PixInsight」では「When you first launch one of the plug-ins, click the “wrench” icon to enter your license key.」って書いてあります。“wrench” iconってなんだっけと思い、起動してみるとBXT試用版の画面右下に小さいレンチマークを発見。やっと思い出しました。これをクリックすればライセンス入力できることを。ここで新しく得たレイセンスキーを入力したら無事試用版の表示が消えました。

そして今回もBXTは大活躍です。今回は、下記の改善を目的にパラメータを調整してみました。

  1. 酷い周辺収差による星像の改善
  2. 星像を小さくする
  3. 星雲細部構造のコントラスト向上

まずは1について。BXTの「Adjust Star Halos」を調整するとハロが改善できるようです。下図はその説明

プラスの値にすると広がりを大きくして明るいハロを作り、マイナスの値にするとハロの明るさと広がりを減らす。と書いてあります。ということは、この値をマイナスにすれば、収差の改善にも効果があるのではないかと思って、最小値である-0.5にしてやってみたところ、確かに2で説明した収差による星像の歪みは若干改善しましたが、星の周囲の色がことごとく赤くなってしまい、大変気持ち悪い写真になりました。BXTはL画像にかけているのにLRGB合成をかけるとこうなります。理由は全く持って不明なのですが、値をプラス方向にしていくと改善します。結局プラスの0.25に落ち着きました。これでもかなり星像改善になっています。

次に2について。星像を小さくすればシャープに見えるのですが、微光星が多い今回の対象では、あまり小さくしてしまうと、ほとんど星が無くなってしまいます。Sharpen Starsの値によりこのバランスをとる事を心がけました。

そして3について。最初deconvolutionのPSF設定で、Automatic PSFのチェックをはずして手動でPSF Diameterの値を調整しようとしましたが、すぐに最適解を見つけられず結局Automatic PSFのチェックを入れた時が一番コントラストが上がりました。下図はユカタン半島の一部分の比較です。

bxt前

bxt後

結構いい感じになりました。最後に最終的なbxtのパラメータ設定を掲載しておきます。

採用したbxtパラメータ