楽しい記憶

天体写真や花鳥風月の写真など

冬先取り_燃木星雲と馬頭星雲

今回は予告通り、オリオン座アルニタク周囲に広がる、冬先取りの「木星雲~馬頭星雲」写真の紹介です。9/10の2時過ぎに撮影しました。オリオン座は南天の天体なので庭先から電線カブリを心配しないで撮影できます。

仕上げた写真

下記が仕上げた写真です。定番の構図です。

オリオン座アルニタク周囲の散光星

<諸元>

  • 機材:
    ASI294MCPro , BLANCA-70EDT+KASAI ED屈折用フィールドフラットナーII ,
    IRCutフィルター,CBPフィルター , AM5赤道儀  ,
    QHY5L-IIM+3cm 130mmガイド鏡
  • 支援ソフトウェア:
    ステラリウムによる自動導入 ,
    SharpCapによる撮影 ,PHD2による2軸オードガイド 
     , ASI Mount Serverによる赤道儀連携
  • 撮影地:
    神奈川県茅ヶ崎市自宅庭先
  • 撮影日時:
    2023/9/10(日)02:08 ~ 2023/9/10(日)03:05
  • 撮影条件:
    Gain200 , センサー温度 -5℃ 
    120sec x 30コマ(総露光時間60分)
  • 編集:
     PixInsightで加算平均合成後トリミング
    (フルサイズ換算焦点距離1310mm相当)等

燃える木の枝構造も良く表現できました。アルニタクも自然な色で輝いています。今年2/2に同じ対象を撮影した時の下記より格段に良くなっており、課題を全て克服した気がして自己満足しています。馬頭もはっきりわかり、周りのHII領域も立体的に表現できました。

webkoza.hatenablog.com

前回との違いについて

諸元の違い

下表は2023/2/2と2023/9/10撮影の主な諸元比較表です。

2/8:撮影時間20:47-22:32 , 月齢17.3 出現時間19:51-32:46
9/10:撮影時間02:08-03:05 , 月齢24.7 出現時間0:42-15:55

どちらの写真もガイド精度に問題は有りませんし、総露光時間は同じなので、カメラの違いと画像処理ソフトの違いが支配的だと思っています。どちらも月による光害は有ります。2/8の方が大きい月ですがQBPを使っているので光害カブリは同じようなものと仮定します。

カメラの違いはPC上で画像処理した時にS/Nの違いとして現れました。S/Nを稼げるとSとNを分離し対象を楽に強調することが出来ます。2枚の写真の総露光時間は同じなのですが、S/Nが明らかに違っていました。この理由を少し考えてみました。下記はあくまで、私が天体写真撮影から得た経験的な私見です。一般的なカメラ性能に言及するものではありません。間違いが有るかもしれません。

量子効率の違い

EOS RPはCANON独自のフルサイズCMOSセンサーを使用し、ASI294MCProはSONYの4/3インチサイズのCMOSセンサーIMX294を使用しています。

これを踏まえ、画像全体のS/Nに影響を与えるものとして、まずはセンサーの量子効率の違い。表面照射型の独自CMOSセンサーであるEOS RPは、裏面照射型であるIMX294の量子効率最大約 76%よりは低い値であることは想像できます。裏面照射型のデメリットは、オンチップレンズと受光面が近いために外乱光などを拾いやすいということも有るようですが。

最適なS/Nを得るための感度設定について

それと、そもそもが画像全体の最適なS/Nを得るための感度設定はどうすれば良いかという問題。感度が大きいとノイズ量も大きくなるので、明るい対象は良く写るが暗い対象はノイズに埋もれてしまうということになります。非常に暗い対象を扱う天体写真はこの感度設定の問題は大変シビアだと思います。EOS RPで暗い夜にQBPを使用する時はISO800ぐらいで撮影するのですが、これが最適である根拠は有りません。デジタル一眼レフカメラは低輝度部を大きく持ち上げる処理を自動でやる事を踏まえ、撮って出し画像は「ヒストグラムのピークが左から2/3ぐらいのところ」が良いという都市伝説に従っています。本当はもっと低いISO値の方が良いのかもしれません。

対して、冷却CMOSセンサーの場合、ユニティゲインがスペック表に載っていて、これを採用すれば原則問題ないようです。但し「ナローバンド撮影等でそもそもセンサーに届く光子が少ない場合は、ゲインの値をUnity Gainよりも高く設定する事でカメラ側に由来するノイズと星からの信号を区別しやすくなります」(STARBASE TOKYO 冷却CMOSカメラデビューを応援! 撮影~画像処理かんたんマニュアル)とあるので、ASI294MCProのユニティゲインは120ですが、私は手持ちのF6鏡筒でCBPやQBPを使用する場合はGain200で撮影することにしています。

センサー温度の問題

次にセンサー温度の問題。フォトダイオードの暗電流ノイズやアンプ回路の発生ノイズは温度が低いほど小さくなります。温度の違いによるノイズの画像全体への影響は驚くほど大きいようです。下記は私の使っているCMOSカメラとは異なるデータですが、丹羽さんの実験結果です。

masahiko.me

この暗電流ノイズも含め固定パターンノイズと呼ばれるノイズは、天体写真では一般的に、ノイズだけが写っているダークフレームと呼ぶ写真を撮影して、ライトフレーム(対象を捉えた写真)から減算処理して取り除きます。ダークフレームは、系の条件を全く同じにして、カメラレンズや望遠鏡のキャップをして撮影します。ところが条件の一つである温度は、暗電流に大きく影響を与えるため、低温で一定温度を保てる冷却CMOSカメラは大変有利になります。

私は夏でもカメラの冷却パワーに余裕がある「-5℃」で常に撮影しています。常に決めた温度とゲインで撮影することにより、ダークフレームとフラットフレーム(像面湾曲収差など光学系の周辺減光だけを映したフレーム)、BIASフレーム(露光時間が0に近い状態でも出力される固有パターンフレーム)を、マスターファイル化(各々複数枚のフレームをスタックした各1枚のファイル)しておいて使いまわす事ができます。つまり毎回ダークとフラットの撮影はやっていません。これも冷却CMOSカメラの大きなメリットだと思います。(厳密にやるために、カメラの回転量の影響や光害カブリの影響などをスタック時に補正するためにフラットフレームやダークフレームを毎回撮り直す方も多いようです)

2/8の撮影では1時間のライトフレーム撮影後にダークフレーム撮影も行っているのですが、このダークフレーム撮影時とライトフレーム撮影時のセンサー温度は同じではありません。理想的には、ライト1枚撮ったらダークを1枚撮るのが良いのかもしれませんが、現実的ではありません。

PixInsight

最後に画像処理ソフトの違いです。PixInsightは、その機能別プラグインの多さという観点から、すごいソフトウェアだと思います。ぜんぜんまだ使いこなせていないのですが、今回の2写真の違いでは、Photometric Color Calibration(PCC)による効果が大きいようです。2023/2/8の写真はPaintShopを使って自分でWB調整したのですが、天体の色を自然に表現できていないと思います。これに対して2023/9/10の写真は、リニア段階の処理(非線形強調処理をかける前に行う処理のこと)で行うPhotometric Color CalibrationによってDBに蓄積された色情報を使って演算した色補正が決まっています。また、特に燃木星雲の細部構造部分はBXT(Blur X Terminator)によるコントラスト強調がうまくいきました。

アノテーション

下記がPixInsightのAnnotateImageスクリプトを使って生成したアノテーション画像です。オリオン座アルニタク周辺には、大きなHII領域以外にも、複数の反射星雲が存在する事が良くわかります。中でも比較的な大きなNGC2023は、暗黒帯を含んでいることもわかります。淡いIC431,432も写っています。

IC434がいわゆる馬頭星雲なのですが、私は勘違いしていて、B33が馬頭の暗黒部分でその周りがIC434だと思っていたのですが、IC434だけで馬頭の暗黒部分を含むようです。